
公園や駅前を歩くハトを見ると、頭を「カクッ、カクッ」と前後へ振っているように見えます。
でも、実際の動きは見た目とは少し違います。
ハトは、頭を後ろへ振りながら歩いているわけではありません。
歩いている途中で頭を空間上のほぼ同じ位置に一瞬保ち、その後、頭を素早く前へ移動させています。この動きには、歩行中の視覚を安定させる役割が大きいと考えられています。
この記事のポイント
- ハトの頭が「後ろへ動く」ように見えるのは、体だけが前へ進むため
- 頭をほぼ同じ場所に保つ段階を「ホールドフェーズ」と呼ぶ
- 頭を素早く前へ送る段階を「スラストフェーズ」と呼ぶ
- 1978年のFrostの研究では、トレッドミル上で通常のヘッドボビングが抑えられることが報告された
- 2000年のTroje & Frostは、ホールド中の頭部が複数方向で非常に安定していることを詳しく調べた
実はハトは頭を後ろへ振っているわけではない
ハトを横から見ると、頭を前へ出したあと、後ろへ引き戻しているように見えます。
しかし、背景を基準にして見ると、実際には頭が一瞬ほぼ同じ場所に残り、体のほうが前へ進んでいることが分かります。
× 頭を後ろへ振る → 前へ振る
○ 頭を止める → 体が前へ進む → 頭を素早く前へ送る
体を基準に見ると頭が後ろへ移動したように見えるため、私たちには「首を前後へ振っている」ように感じられるのです。
図のように、頭を一瞬その場に保つ → 体が前へ進む → 頭を前へ送るという順番で見ると、ハトの独特な歩き方を理解しやすくなります。
動画で見ると「頭を止めている」ことが分かりやすい
下のスローモーション動画では、ハトの体ではなく頭と背景の位置関係に注目してください。
ハトの首の動きをスローモーションで確認。頭が一瞬ほぼ同じ位置に保たれたあと、素早く前へ移動する様子に注目してください。
ハトの首振りは「ホールド」と「スラスト」の2段階
歩行中の特徴的な頭部運動は、大きくホールドフェーズとスラストフェーズの2段階に分けて説明できます。
ホールドフェーズ
頭を空間上のほぼ同じ位置に保つ段階です。
この間も足と体は前へ進んでいるため、体から見ると頭が後方へ移動したように見えます。
スラストフェーズ
頭を新しい位置へ素早く前進させる段階です。
前へ移動した頭は、次のホールドフェーズで再びほぼ安定した位置に保たれます。
HOLD → THRUST → HOLD → THRUSTを繰り返すことで、人間には「頭を前後へ振りながら歩いている」ように見えます。
なぜ頭を止めると見やすくなるの?
歩いている間、体は前へ移動し続けます。もし頭と目も同じように連続して動けば、網膜に映る周囲の景色も流れ続けます。
そこでハトは、ホールドフェーズで頭部を一時的に安定させます。
頭と目の位置が安定する時間を作ることで、網膜上の像の動きを抑え、周囲を確認しやすくしていると考えられています。
地上を歩くハトにとって、地面の食べ物、障害物、ほかのハト、人や動物などを見分けることは重要です。
1978年にB. J. Frostが発表した研究では、ハトの歩行中のヘッドボビングを高速撮影で分析し、頭を空間内でほぼ固定する段階と、素早く前方へ移動する段階が報告されています。
動く床では首振りが抑えられた|Frost 1978
ハトの首振りと視覚の関係を考えるうえで重要なのが、Frostによる1978年の研究です。
この研究では、ハトがトレッドミル上を歩く条件も調べられました。
足は動いていても、周囲の環境に対する位置がほぼ変わらない状況では、通常の歩行で見られるヘッドボビングが抑えられたと報告されています。
| 状況 | 足の動き | 周囲に対する移動 | ヘッドボビング |
|---|---|---|---|
| 通常の地面を歩く | ある | ある | 起こりやすい |
| 速度を合わせたトレッドミル | ある | 小さい | 抑えられる |
この結果は、「足を動かすと機械的に首振りが起こる」という単純な仕組みではなく、目に入る景色の動きが重要であることを示す根拠の一つです。
ホールド中の頭はどれくらい安定している?|Troje & Frost 2000
2000年にはNikolaus F. TrojeとBarrie J. Frostが、ホールドフェーズ中の頭部がどの程度安定しているのかを詳しく調べました。
この研究では、頭部は単に前後方向だけでなく、上下方向や回転方向についても非常に安定していることが示されています。
完全に微動だにしないわけではなく、小さなずれもありますが、研究ではそのずれが視覚的な安定化のための誤差信号として働く可能性も論じられています。
「首を振っている」というより、「見るために頭を安定させる時間」と「次の位置へ移す時間」を交互に作っていると考えると理解しやすくなります。
バランスを取るためだけに首を振っているわけではない
ハトの首振りについては「歩くときのバランスを取るためでは?」と思われることがあります。
もちろん歩行運動と頭部運動は連動していますが、トレッドミル上では足を動かしていても通常のヘッドボビングが抑えられることから、単純なバランス調整だけでは説明できません。
現在は、歩行時に視覚を安定させる働きが重要だと考えられています。
首振りには距離をつかむ役割もある?
鳥の頭部運動については、視界の安定だけでなく、周囲の物体との距離を知る手がかりになる可能性も研究されています。
自分が動くと、近くの物体は視野内で大きく移動し、遠くの物体は比較的小さく動いて見えます。これは運動視差(motion parallax)と呼ばれます。
ただし、ハトのヘッドボビングについて「目的は距離測定だけ」と断定することはできません。首振りには複数の視覚的・運動的な機能が関わる可能性があります。
ハトは歩けば必ず首を振るの?
必ずしも、足を動かせば同じ首振りが自動的に起こるわけではありません。
Frostのトレッドミル実験が示すように、ハトと周囲の景色との相対的な動きによってヘッドボビングは変化します。
つまり、単純に「歩くから首を振る」のではなく、「移動しながら周囲を見るための頭部運動」として考える方が実態に近いといえます。
実際のハトを観察するときは「背景」を見る
次に公園などで歩いているハトを見かけたら、体ではなく頭と背景の位置関係を見てみてください。
- ハトの頭と、背景の建物や地面の模様を見比べる
- 体が前へ進んでいるのに、頭だけ一瞬ほぼ同じ位置にある瞬間を探す
- その直後、頭が素早く前へ移動する様子を見る
スマートフォンで横から撮影し、スロー再生すると「ホールド → スラスト」の切り替わりがさらに分かりやすくなります。
「鳩に餌やるゲーム Ver.2」でも首振り歩きを観察できる
HATO GAMESでは、公園で3Dのハトに餌をまき、集まってくるハトを眺める無料ブラウザゲーム「鳩に餌やるゲーム Ver.2」を公開しています。
Ver.2では、実際のハトや研究を参考にしながら、頭を一時的に安定させてから前へ送る首振り歩きをゲーム内の3Dハトにも取り入れています。
ゲームでは、餌に集まるドバトのほか、白いハトやキジバト、1羽ずつ異なる性格や行動も観察できます。
ハトの首振りについてよくある質問
主な理由の一つは、歩行中の視覚を安定させることだと考えられています。頭を一時的にほぼ同じ位置へ保ち、その後、素早く前へ移動させます。
はい。背景を基準にすると、頭は一瞬ほぼ同じ位置に保たれています。その間に体が前進するため、体から見ると頭が後ろへ移動したように見えます。
ハトが頭を空間上のほぼ同じ位置に保つ段階です。歩行中でも頭と目を安定させる時間になります。
ホールドした頭を、次の位置へ素早く前方へ移動させる段階です。その後は再びホールドに入ります。
バランスだけでは説明できません。足を動かしていても、周囲に対して移動しないトレッドミル条件では通常のヘッドボビングが抑えられたため、視覚との関係が重要だと考えられています。
歩行時に特徴的な頭部運動を示す鳥はハト以外にもいます。ただし、すべての鳥が同じ方法・同じ程度で頭を動かすわけではありません。
まとめ|ハトの首振りは「後ろへ振る」のではなく「止めて前へ送る」
ハトが歩くときの独特な首振りは、単純に首を前後へ往復させている動きではありません。
- ホールド:頭を空間上のほぼ同じ位置に保つ
- その間に体が前へ進む
- スラスト:頭を素早く前へ移動させる
- 新しい位置で再びホールドする
この繰り返しによって、私たちには首を前後へ振っているように見えます。
次にハトを見かけたら、「首が後ろへ動いているか」ではなく、頭と背景の位置が一瞬そろって止まって見えるかを観察してみてください。
参考文献・一次資料
- Frost, B. J. (1978), “The Optokinetic Basis of Head-Bobbing in the Pigeon”, Journal of Experimental Biology, 74(1), 187–195.
Journal of Experimental Biology掲載ページ(一次資料) - Troje, N. F. & Frost, B. J. (2000), “Head-Bobbing in Pigeons: How Stable is the Hold Phase?”, Journal of Experimental Biology, 203(5), 935–940.
Journal of Experimental Biology掲載ページ(一次資料)
本記事では、上記研究をもとに、ハトの歩行時の頭部運動を一般向けに分かりやすく整理しています。



“ハトはなぜ首を振って歩く?実は「頭を止めている」理由を解説” に対して3件のコメントがあります。