
公園や駅前を歩いていると、人のすぐ近くまで寄ってくるハトを見かけることがあります。
こちらが歩いていてもなかなか逃げず、ときには足元まで近づいてくることもあります。
「野生の鳥なのに、どうしてこんなに人を怖がらないんだろう?」
と思ったことがある人も多いのではないでしょうか。
実は、街のハトが人に近づくのには、
- 人の多い環境に慣れている
- 人の近くに食べ物があることを学習している
- 危険な人と危険ではない人を見分ける能力がある
- 都市そのものがドバトにとって暮らしやすい
といった複数の理由が関係しています。
ただし、ハトが人間をまったく怖がっていないわけではありません。
危険だと判断すれば逃げますし、人との距離の取り方も場所や個体によって違います。
この記事では、街のハトがなぜ人に慣れているように見えるのか、その理由を分かりやすく解説します。
街のハトは本当に人を怖がっていないの?
結論からいうと、
「人を怖がらない」というより、人との距離に慣れている
と考える方が正確です。
野生動物は通常、人間のような大きな生き物が近づけば危険を感じて逃げます。
しかし都市部では、
- 毎日大量の人が歩いている
- 人が近くを通っても何も起こらない
- 人の周辺で食べ物を見つけられる
という経験を何度も繰り返します。
その結果、
「人が近くにいる=必ず危険」
とは判断しなくなっていきます。
このように、何度も刺激を経験することで反応が弱くなることを一般に**「馴化(じゅんか)」**と呼びます。
人が多い場所ほどハトは逃げにくい
街のハトが人に慣れていることは、実際の研究でも確認されています。
ニューヨーク市で519羽のドバトを調査した研究では、人通りが多く、都市化が進んだ場所ほど、人が近づいた際にハトが逃げ始める距離が短い傾向が確認されました。
つまり、
人が少ない環境
人がまだ遠くにいても逃げる。
人が多い都市
かなり近づくまでその場にいる。
という違いが見られたのです。
街で暮らすハトにとって、人間は毎日何度も目にする存在です。
いちいちすべての人から全力で逃げていたら、餌を探したり休んだりすることも難しくなります。
都市で生活する中で、
「どの程度まで人が近づいたら逃げるべきか」
を調整していると考えられます。
ハトが人に近づく大きな理由は「食べ物」
街のハトと人間との関係で、特に大きなポイントが食べ物です。
ドバトは本来、
- 穀物
- 種子
- 木の実
- 植物
などを食べます。
しかし都市では、人間の生活によって、
- パンくず
- 食べこぼし
- 落ちている食品
- 人から与えられる餌
なども利用できるようになりました。
Cornell Lab of Ornithologyも、都市のカワラバト・ドバトが人間によって意図的または偶然に残された食べ物を利用し、人が餌を与える都市公園では大きな群れになることがあると説明しています。
そのためハトから見ると、
人間の近く=食べ物が見つかる可能性がある
という経験が積み重なることがあります。
人を見ると「餌をもらえるかも」と学習することもある
公園のベンチに座っただけなのに、ハトが近づいてきた経験はないでしょうか。
特に、
- 袋を持っている
- ベンチに座る
- 食事をしている
- 地面へ何かを落とす
といった状況では、ハトが近づいてくることがあります。
これはハトが人の行動と食べ物を関連づけて学習している可能性があります。
人から繰り返し餌をもらえる環境なら、
人に近づく
↓
食べ物が手に入る
↓
また人に近づく
という行動が強化されていきます。
ハトは人間の違いも見分けられる
さらに興味深いことに、ハトは単に、
「人間なら誰でも同じ」
と考えているわけではない可能性があります。
2011年に発表された研究では、都市公園に暮らす野生のハトに、
- 普通に餌を与える人
- ハトを追い払う人
という異なる行動をする2人の実験者を経験させました。
するとハトはわずか数回のセッションで2人を区別するようになり、追い払った人物を避けるようになりました。
さらに2人が服を交換しても、その違いを維持しました。
つまりハトは、
「この人は安全」
「この人には近づかない方がいい」
という経験を学習できると考えられます。
街のハトが人のすぐそばまで来る姿を見ると単純に大胆な鳥のように思えますが、実際にはかなり細かく周囲を観察しているのです。
ハトは人の顔を覚えているの?
「ハトは人間の顔を覚えられるの?」
という疑問もあります。
研究では、ハトが実際の個々の人間を区別できる能力を持つことが示されています。
飼育下で行われた研究では、ハトが実物の人間を個体ごとに見分けることができ、その判断には頭部付近の視覚情報が重要だったことも報告されています。
ただし、
街のハトが公園に来るすべての人の顔を記憶している
という意味ではありません。
重要なのは、ハトには経験をもとに特定の人間を区別する能力があるということです。
「近づいてくる=なついている」とは限らない
人の足元までハトが来ると、
「自分になついているのかな?」
と思うこともあります。
しかし、多くの場合は人間をペットの飼い主のように慕っているとは限りません。
考えられるのは、
- 食べ物がもらえるかもしれない
- 人間そのものに慣れている
- 危険ではないと判断している
- いつもの採餌場所だからそこにいる
といった理由です。
つまり、
人に近づく=人が大好き
とは単純にはいえません。
それでも一定以上近づけば逃げる
人慣れしているハトでも、距離を詰め続ければ多くの場合は逃げます。
動物行動学では、人や捕食者などが近づいたときに逃げ始める距離を**Flight Initiation Distance(逃避開始距離)**と呼びます。
都市のドバトを対象にした研究では、この距離にはかなり大きな個体差・地域差がありました。
ニューヨーク市で行われた研究では、0.1mという非常に近い距離まで逃げない個体から、15m離れていても逃げ始める個体まで確認されています。
つまり、
ハトは人を怖がらない鳥
なのではなく、
「ここまでは大丈夫」という距離が都市では短くなっているハトが多い
と考える方が適切です。
急に近づくと逃げるのはなぜ?
普段は人のそばを平気で歩いているハトでも、
- 突然走って近づく
- 手を伸ばす
- 追いかける
- 大きな音を出す
と、すぐに飛び立つことがあります。
これはハトが、
普通に歩いている人
と
自分に向かって急接近してくる人
を同じ危険度で見ていないからだと考えられます。
都市のハトは人間に慣れている一方で、必要な逃避行動そのものを失ったわけではありません。
子どもが走っていくとハトが一斉に飛ぶ理由
公園では、
子どもがハトの群れに向かって走る
↓
ハトが一斉に飛び立つ
という光景もよく見られます。
これもハト側から見ると自然な反応です。
普段の歩行者は、
一定方向へ歩いて通り過ぎるだけ
という行動が多いですが、自分に向かって高速で接近してくる動きは危険度が高くなります。
そのため、人に慣れている都市のハトでも逃げます。
ドバトが特に人に慣れているように見える理由
街で見かけるハトの中でも、人のすぐ近くにいることが多いのはドバトです。
ドバトは人間に飼育されていたハトを祖先に持ち、現在では世界各地の都市環境に定着しています。
都市には、
- 食べ物が多い
- ビルや橋など休める場所が多い
- 人が多い
- 年間を通して生活しやすい場所がある
など、ドバトにとって利用できる環境があります。
都市のドバトについての研究でも、食物の多さや捕食圧の低さなどが都市で繁栄できる要因として挙げられています。
キジバトも同じくらい人に近づく?
日本の街ではドバト以外にキジバトもよく見かけます。
ただし、行動には違いがあります。
駅前や公園などで大きな群れを作り、人の足元まで近づいてくる姿をよく見るのは主にドバトです。
一方、キジバトは、
- 住宅街
- 公園の樹木
- 庭
- 電線
などで、1羽または2羽程度で見かけることが多くあります。
もちろん個体差はありますが、
「人の周囲に大量に集まる街のハト」
というイメージは特にドバトと結びついています。
ハトに餌をあげればもっと人になつく?
ここは注意が必要です。
餌を与え続ければ、ハトが人の近くに来る行動は強くなる可能性があります。
しかし、だからといって野生のハトへの餌やりを推奨できるわけではありません。
餌やりが続くと、
- 特定の場所に多数のハトが集まる
- 個体数が増える
- フンや鳴き声による問題が起きる
- 人が与える餌に依存する
- 本来の習性が変化する
といった問題につながる可能性があります。
大阪市も、野生のハトなどへの餌やりを続けると人の餌に依存し、野生動物本来の習性が変化すると注意喚起しています。
横浜市も、ドバトへの餌やりは個体数を人為的に増やし、特定の場所へ集める原因となるため控えるよう案内しています。
そのため、
「ハトと仲良くなりたいから餌をあげる」
という行動は避け、適度な距離から観察する方がよいでしょう。
ハトが自分に近づいてきたらどうすればいい?
基本的には何もする必要はありません。
ハトが近づいてきても、
- 追いかけない
- 急につかもうとしない
- 必要以上に近づかない
- 餌を与えない
ようにして、そのまま観察するのがおすすめです。
ハト側が安全だと判断すればそのまま歩き続けますし、危険を感じれば自分から距離を取ります。
ハトを近くで観察すると意外に面白い
人に慣れた街のハトは、比較的近い距離から行動を観察できる野鳥でもあります。
たとえば、
- 首を独特に動かしながら歩く
- 地面をつついて食べ物を探す
- 仲間を追いかける
- 羽づくろいをする
- 日なたで休む
- 突然群れで飛び立つ
など、さまざまな行動を見ることができます。
ハトの首の動きには視界を安定させる役割があると考えられています。
ハトは人の近くで何を食べている?
街のハトが人の周りに集まりやすい理由には、食べ物も深く関係しています。
本来ハトは、
- 穀物
- 種子
- 木の実
- 植物の芽
などを食べます。
しかし都市では、人が落とした食べ物なども利用します。
ハトが本来何を食べているのかについてはこちらで詳しく解説しています。
▶ ハトは何を食べる?好きな食べ物・食べてはいけないものを解説
夜になると人の近くからいなくなるのはなぜ?
昼間には駅や公園など人の多い場所にいるハトも、夜になると姿が少なくなります。
ドバトは夜になると、
- 建物のひさし
- 橋
- 高架下
- 建物の棚状部分
など、安全に休める「ねぐら」へ移動します。
つまり、
昼間は人のいる場所で活動
↓
夜は安全な場所で休む
という使い分けをしています。
ハトジャンプシリーズのゲームでもハトを観察できる
本物のハトを観察するのも面白いですが、ハトジャンプシリーズのゲームでは、自分でハトを操作して遊べる作品もあります。
たとえば**ハトルロワイアル**では、プレイヤー自身がハトとなってフィールド内を歩き回ります。
実際のハトについて、
- 人の近くを歩く
- 独特な首の動きをする
- 仲間と群れる
といった行動を知ってからゲーム内のハトを見ると、また違った視点で楽しめるかもしれません。
ハトと人についてよくある疑問
ハトは人間を怖がらないの?
完全に怖がっていないわけではありません。
都市では人間に接する機会が非常に多いため、危険ではない日常的な刺激として慣れている個体が多いと考えられます。
危険だと判断すれば逃げます。
ハトは人の顔を覚える?
研究では、ハトが個々の人間を区別できることが確認されています。
都市公園の野生のハトを対象にした実験でも、普通に餌を与えた人と追い払った人を短期間で区別し、追い払った人物を避けるようになりました。
なぜハトは足元まで来るの?
人に慣れていることに加え、食べ物が得られる可能性を学習していることなどが考えられます。
特に普段から餌を与えられている場所では、人への接近が起こりやすくなります。
ハトを触っても大丈夫?
野生のハトへ積極的に触ることはおすすめしません。
ハト自身にストレスを与える可能性もあります。
基本的には適度な距離から観察しましょう。
ハトに餌をあげてもいい?
場所によっては禁止・制限されている場合があります。
また、継続した餌やりはハトの増加や人への依存、フン害などにつながる可能性があります。
野生のハトは餌を与えず観察するのがおすすめです。
ハトは誰が餌をくれたか覚えている?
少なくとも研究では、ハトが「餌を与えてくれる人」と「追い払う人」を学習して区別できることが示されています。
ただし、街のすべてのハトがすべての人を個別に記憶しているという意味ではありません。
まとめ|街のハトは人を怖がらないのではなく、人との距離を学習している
街のハトが人のすぐ近くまで来るのは、
単純に人間を怖がらない鳥だから
というだけではありません。
主な理由として、
- 人が多い都市環境に慣れている
- 人の近くで食べ物を得られることがある
- 経験から安全な状況と危険な状況を学習できる
- 人との距離を状況に応じて調整している
といった点が考えられます。
実際、都市のドバトでは人間の活動量が多い場所ほど、かなり近づくまで逃げない傾向が研究で確認されています。
さらにハトは、人間をすべて同じ存在として扱っているわけではありません。
実験では、餌を与える人と自分を追い払った人を区別し、危険だった人を避けることも確認されています。
つまり街のハトは、
「人を怖がらない」のではなく、「人間との付き合い方をかなり上手に学習している鳥」
と考えると、その行動がより面白く見えてきます。
次に公園でハトが近づいてきたら、餌を与えず、少し離れた場所から行動を観察してみてください。
ハトについてさらに知りたい人はこちら。
▶ ハトは何を食べる?好きな食べ物・食べてはいけないものを解説
ハトを自分で操作してみたい人はこちら。

